税理士が担う範囲と中国側専門家との役割分担

顧問先が中国に子会社を持つと、現地の決算や税務についての質問が事務所に届きます。日本の税理士資格でどこまで対応できるのか、はっきりしないまま関与を続けている事務所は少なくありません。

今回は、税理士法が及ぶ範囲と中国側の資格制度を整理し、業務の線引きをどこに引くかを扱います。

なお、本記事で扱う制度は2026年9月時点のものです。

日本の税理士資格が中国の税務手続きに及ばない理由

日本の税理士制度と中国の制度は、それぞれ別の前提で組み立てられています。両者がどこで交わらないのかを先に確認します。

税理士法が対象としているのは日本の租税

税理士法2条は、税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つを税理士の業務と定めています。ここでいう租税とは、日本の国税と地方税です。中国の企業所得税や増値税は、この租税に含まれていません。

したがって、中国子会社の現地申告について、日本の税理士資格を根拠に代理人となることはできない、というのが出発点です。一方で、中国の税制について顧問先に説明したり、日本側の申告に必要な情報を整理したりする行為は、税理士法上の制限を受けるものではありません。

税理士法52条が禁じているのは、税理士でない者が日本の税理士業務を営むことであって、税理士が日本の租税以外の分野に関与することではないためです。制限がかかるのは資格の使い方ではなく、中国国内の手続きに入れるかどうかです。

中国の税務手続きは実名で登録した者が担う

中国では、申告も届け出も電子税務局と呼ばれるオンラインシステムを経由します。利用には担当者本人の実名認証が必要です。

2025年3月17日に国家税務総局令第58号として公布され、同年5月1日から施行されている涉税専業服務管理弁法は、税務に関する専門サービスを提供する機構とその担当者に対し、初めてサービスを提供する前に、氏名や身分証番号を含む基本情報を税務機関へ届け出るよう求めています。届け出をした機構と担当者には信用コードが付与され、業務委託契約の内容も税務機関へ報告することになります。同弁法31条は、届け出をせずに委託者側の事務担当者の身分で手続きすることを、違反行為として挙げています。違反があれば、期限を定めた是正命令や信用評価の引き下げのほか、機構と担当者それぞれに過料が科されます。

日本の事務所が中国子会社の申告を直接処理できない理由は、資格の有無というより、この登録の仕組みに入れないところにあります。

中国の専門サービスは8種類に区分されている

同弁法7条は、税務に関する専門サービスを8種類に区分しています。

納税申告の代行、一般的な税務相談、専門税務顧問、税務コンプライアンス計画、税務に関する証明業務、納税状況の審査、その他の税務事項の代行、その他の税務代理です。このうち3番目から6番目までの4種類は特定涉税専業服務として区分され、業務内容を税務機関へ報告する義務が課されています。残りの4種類は一般涉税専業服務として扱われ、報告の負担が相対的に軽くなっています。

顧問先の中国子会社が現地の誰に何を委ねているのかを把握するとき、この区分が手がかりになります。記帳と申告の代行だけを頼んでいるのか、税務上の判断を伴う助言まで受けているのかで、期待できる責任の重さが変わるためです。月額の顧問料が低い場合、契約に含まれているのは記帳と申告の代行だけ、というケースが珍しくありません。

その前提で、日本側の申告に必要な資料の作成まで期待していると、話が食い違います。

中国の税務と会計に関わる3つの資格

日本の税理士、公認会計士、弁護士にあたる資格は中国にもあります。ただし、位置づけまで同じではありません。

税務師は独占資格ではない

税務師は、税務に関する知識と能力を評価する国家資格です。かつては注冊税務師という名称で、この資格がなければ税務代理業務に従事できない参入型の資格でした。2014年に国務院が職業資格の整理を決めたことにより、参入型から水準評価型へ位置づけが変わり、名称からも注冊の2文字が外れています。その結果、中国では税務代理が税務師だけに認められた独占業務ではなくなりました。代理記帳機構や財税系のコンサルティング会社も、税務に関する専門サービスを提供する機構として制度上位置づけられています。

日本の税理士制度をそのまま当てはめると、ここで見誤ります。中国側の窓口が税務師の資格を持っているかどうかだけでは、業務の質も責任の範囲も判断できません。

実際に確認したいのは、資格の有無よりも、税務機関への届け出が済んでいるか、そして日本側の申告に必要な資料を出せるかどうかです。

注冊会計師は監査を担う

注冊会計師は、日本の公認会計士にあたる資格です。個人での開業は認められておらず、会計師事務所に所属して業務にあたります。中国子会社の年度監査と監査報告書の発行は、会計師事務所でなければ担えません。顧問先から中国子会社の監査報告書を受け取ったことがあれば、その発行元が会計師事務所です。この監査報告書は、後で触れる外国子会社合算税制の判定でも使います。

中国側の窓口が記帳を代行している機構と、監査を担う会計師事務所とは別の組織であることが通常です。資料を依頼するとき、どちらに聞けば出てくるのかを分けて考えておくと、やり取りが短くなります。

律師は法務と税務が重なる場面で関わる

律師は、日本の弁護士にあたる資格です。契約や紛争の対応に加え、税務に関する専門サービスも扱えます。撤退や持分譲渡のように法務と税務が重なる場面では、律師事務所が関与することがあります。中国では、律師事務所も税務に関する専門サービスの提供機構として制度上位置づけられており、税務師事務所や会計師事務所と並ぶ選択肢になります。

日本のように、税務は税理士、法務は弁護士と分かれているわけではない点に注意が要ります。

中国子会社の案件で日本の税理士が担う範囲

ここからは、実際の業務をどう分けるかを見ます。判断の基準は資格ではなく、どちらの国の法令と資料で完結するかです。

日本側で完結する業務

日本の法令と、手元にそろえた資料だけで判断できる業務があります。中心になるのは次の6つです。

  • 外国子会社合算税制の適用判定と合算課税の計算
  • 外国税額控除の計算と控除限度額の管理
  • 外国子会社配当益金不算入の適用判定
  • 国外関連者に関する明細書の作成
  • 移転価格のローカルファイルの作成
  • 中国子会社の数値を取り込んだ連結決算

いずれも日本の法人税申告に直結するため、税理士の関与が前提になります。このうちローカルファイルには、確定申告書の提出期限までに作成する同時文書化義務があります。前事業年度における一の国外関連者との国外関連取引の合計額が50億円以上、または無形資産取引の合計額が3億円以上の場合が対象です。

中堅規模の顧問先では基準に届かないことが多いものの、作成しなくてよいという意味ではありません。基準未満でも、税務調査で求められれば60日以内に提出する必要があります。ただし、これらの判定に使う数値そのものは、中国子会社から取り寄せなければそろいません。

判断は日本でできても、材料は中国にあります。

中国側の資格者に委ねる業務

現地でしか完結しない業務もあります。次のような手続きが該当します。

  • 企業所得税と増値税の申告
  • 電子税務局での各種届け出
  • 発票の受領と管理
  • 年度監査と監査報告書の発行
  • 税務当局からの照会や調査への対応
  • 外貨管理に関する銀行および当局とのやり取り

発票とは、中国の税務機関が管理する公式な証憑で、日本の請求書や領収書にあたるものです。中国では、正規の発票がなければ費用として損金に算入できないため、その管理は経理事務の中心を占めます。これらはいずれも、中国国内での実名登録と現地での対面対応が前提になります。日本から遠隔で処理することは、制度上も運用上もできません。

顧問先が現地に財務担当者を置いていない場合、これらはすべて外部の機構に委託されているはずです。その委託先の名前と担当範囲を把握していないまま、日本側で数値だけを受け取っている状態は避けたいところです。

日中双方が関わる業務

判断は日本側、資料は中国側という業務が、実務ではいちばん手間のかかる部分です。外国子会社合算税制の判定に必要な資料の特定と取り寄せが、その代表になります。租税負担割合を計算するには、中国子会社の企業所得税年度申告表と監査報告書が要ります。優遇税制の適用を受けている場合は、その根拠となる認定書類も確認しておきたいところです。

移転価格も同じ構図です。日本側のローカルファイルと中国側の同期資料は、同じ取引を別の様式で説明する文書にあたります。記載が食い違えば、どちらかの当局に指摘される材料になります。

配当を受け取る場合も、中国側での送金手続きと日本側の益金不算入の判定が対になります。日中租税条約により、中国で課される配当の源泉税は10%が上限です。日本側では、外国子会社配当益金不算入の適用を受けると配当の95%が益金に算入されません。このとき、中国で課された源泉税は損金にも外国税額控除にも使えず、そのまま負担として残ります。送金の実行前に日本側の処理まで見通しておくかどうかで、手取りの見込みが変わります。

法定税率だけで判断すると外れる場面

中国の企業所得税の法定税率は25%です。この数字だけを見て、外国子会社合算税制の対象にはならないと判断されることがあります。しかし、適用免除の分かれ目になるのは法定税率ではなく、実際の税負担から計算する租税負担割合です。

優遇税制が適用されていると水準が下がる

中国の企業所得税法28条2項により、高新技術企業の認定を受けた企業には15%の税率が適用されます。高新技術企業とは、中国政府が定める技術分野で研究開発を続け、要件を満たすと認定された企業のことです。認定の有効期間は3年で、期間が切れれば再認定を受ける必要があります。15%が適用されている中国子会社では、租税負担割合が20%を下回る可能性が出てきます。

外国子会社合算税制では、経済活動基準のいずれかを満たさない対象外国関係会社について、租税負担割合が20%以上であれば会社単位の合算課税が免除されます。実体を欠くペーパーカンパニーなどの特定外国関係会社では、この基準が27%です。研究開発費の上乗せ控除など、税率以外の優遇によって税負担が下がることもあります。

中国子会社が優遇税制の適用を受けているかどうかは、顧問先の日本での申告に直接影響します。

租税負担割合は決算書だけでは計算できない

租税負担割合は、中国子会社の所得金額に対して実際に課された税額の割合として求めます。分母となる所得金額は、現地の法令で計算した課税所得を基礎に、非課税とされた所得などを加算して調整します。

つまり、会計上の利益と税務上の所得の差を追える資料がなければ計算できません。監査済みの財務諸表と企業所得税年度申告表の双方をそろえる必要があるのは、このためです。

現地から送られてくる月次の試算表だけでは足りません。

日本の申告時期と中国側の作業時期はずれる

制度の違いに加えて、時間軸のずれも実務に効いてきます。中国子会社の数値がいつ固まるのかを知らないと、日本側の申告準備が間に合いません。

中国の会計年度は動かせない

中国の会計法は、会計年度を毎年1月1日から12月31日までと定めています。すべての企業に適用されるため、日本の親会社に合わせて決算期を変えることはできません。親会社が3月決算であれば、3ヶ月のずれが生じます。

中国子会社の年度監査は年明けから春先にかけて進み、企業所得税の確定申告は年度終了後5ヶ月以内、つまり5月31日が期限です。

合算の時期は中国子会社の事業年度で決まる

外国子会社合算税制では、外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から2ヶ月を経過する日を含む親会社の事業年度で合算します。中国子会社の12月期であれば、翌年3月1日を含む親会社の事業年度が対象です。親会社が3月決算なら、その年の3月期に取り込むことになります。12月決算の親会社であれば、翌年の12月期です。

子会社の数値を使う時期が1年近く先になるため、資料を保管しておく期間の管理も要ります。一方、親会社の申告期限は事業年度終了から2ヶ月後で、中国側の確定申告期限は5月31日です。

両者はほぼ同時期に来ます。中国側の数値が固まるのを待っていると、日本側の申告に間に合いません。

監査の途中段階から数値を押さえておく段取りが必要になります。

線引きが曖昧なままだと何が起きるか

実際に問題になるのは、資格の有無ではなく責任の所在です。中国子会社の数値をそのまま日本側の申告に取り込み、後になって現地の会計処理が中国の企業会計準則に沿っていなかったと分かる例があります。

このとき修正が必要になるのは、日本側の申告です。現地の会計事務所は日本の税務に責任を負わず、日本の税理士は現地の帳簿を検証する立場にありません。どちらも自分の担当範囲では誤っていない、という状態が生まれます。

同じことは、優遇税制の適用状況でも起こります。現地の担当者は高新技術企業の認定を当然の前提として扱い、日本側にわざわざ伝えないことがあります。日本の税理士は法定税率25%を前提に判断し、合算課税の検討をしないまま申告を終えます。どちらにも悪意はなく、情報が渡っていないだけです。

関与を始める時点で、どの資料を誰が確認するかを決めておけば、この空白は防げます。

資料の一覧をつくり、入手の担当と時期まで書き出しておくと、翌年以降も同じ手順で回せます。

中国側の委託先を確認するときの視点

中国側に業務を委ねるとしても、任せきりにはできません。顧問先の委託先について、次の5点を確認しておくと判断しやすくなります。

  • 税務機関に届け出た機構情報が公示されているか
  • 信用評価の等級がどの水準か
  • 日本の税務を前提とした資料の作成に対応できるか
  • 日本語または日本の会計基準に沿った説明ができるか
  • 日本側の申告時期に合わせて資料を出せるか

中国の税務機関は、税務に関する専門サービスを提供する機構の名簿と信用状況を、ウェブサイトと電子税務局で公示しています。信用評価はTSC1級からTSC5級までの5段階で、TSC5級が最上位です。公示されていない機構に委託していないかどうかは、顧問先に確認する価値があります。

現地の担当者が中国語しか話せない場合、顧問先の駐在員を介した伝言で資料を依頼することになります。このやり方では、日本側が本当に必要としている資料が伝わらないまま、別の書類が届くことがあります。

日本の税務を前提に資料を指定できる相手かどうかは、実務の速度を大きく左右します。

まとめ

中国子会社を持つ顧問先への対応は、日本の税理士がどこまでできるかという問いよりも、どの業務をどちらの国の制度の下で処理するかという整理の問題です。

日本の法人税申告に直結する判断は税理士が担い、中国国内での申告と手続きは現地で実名登録した者が担います。

その間にある資料の取り寄せと読み取りが、実務でいちばん抜けやすい部分です。ここを誰も担当していない状態で年を越すと、翌年の申告時期に同じ苦労を繰り返すことになります。

中国子会社の資料が読み取れない、現地からの回答が要領を得ない、優遇税制の適用状況が確認できないといった場面では、中国の実務を把握している専門家と組むことで判断が進みます。

関与の範囲をどう分けるか、中国側の担当をどこに委ねるかを検討されている場合は、個別の状況を伺ったうえで整理のしかたをご提案します。

中国案件の共同対応・提携をご相談ください

中国子会社を持つ顧問先への対応では、日本側の税務判断と中国側の資料・手続を切り分け、必要な箇所だけを共同で進めることが重要です。

貴事務所が顧問先との窓口と日本側の判断を担い、中国側の実務確認を必要な範囲で支援します。

  • 中国ローカルの会計事務所・担当者への資料依頼と連絡調整
  • 監査報告書、企業所得税申告表、営業執照・定款等の取得・読解支援
  • 外国子会社合算税制、移転価格、配当・源泉税、資金支援、清算に必要な事実整理
  • 日中双方の専門家の役割分担と、顧問先への説明方法の整理

顧問先との関係を維持したまま、中国側の実務部分のみをご相談いただけます。個別案件の共同対応や提携については、お問い合わせください。

在中国30年/上海現地から生の情報発信中  上海UAコンサルティング代表

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