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士業専門・中国税務会計コンサルティング

中国における監事(監査役)のあり方と監査の要点

本社管理部門のメンバーを中国子会社の監事(日本でいうところの監査役)に任命する会社は未だ主流であるかと思われますが、本社の担当税理士などの外部者を任命するケースも散見されるようになりました。それでも監事の役割と責任から考えて誰を指名してもよいという訳ではありませんし、なる方としても法的責任を十分認識して任に着くことが肝要です。ここでは内部統制の強化を行う上で重要となる監事(監査役)の役割及び業務内容について考えてみましょう。

中国の会社法では、「有限責任会社(外資系企業も含む)は監事会を設置し少なくとも3名の監事を任命しなければならない、あるいは株主の少ない(又は小規模)の会社は監事を1〜2名任命する」と規定されています。日系企業では日本本社の管理部門の課長(部長)、中国に統括管理会社を設立しているのであれば統括管理会社の財務責任者を中国子会社の監事として任命することが多いようです。監事はその役割からして会社の総経理及び管理職が兼務することはできず、また董事会のメンバーとなることもできません。

監事の担う役割と業務範囲

監事とは日本でいうところの監査役に当たり、現地法人から独立した立場で中国現地法人の業務執行に係る重要決議事項、内部統制システム、会計帳簿を含む財務諸表の調査及び確認を行います。監事の主な業務として以下の項目が挙げられます。

  • 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本変動表及び注記事項が中国会計制度に従い適切に作成、表示されているか検証する
  • 主要業務又は財務諸表に重大な影響を与える業務における内部統制システムが有効であるか確認する
  • 中国事業における不正行為の有無、業務が法令及び会社定款の定めに従い執行されているか関連資料の確認を行う
  • 年に一度の開催が義務付けられている董事会へ出席する

中国現地法人の監事が実際に対象会社に出向く機会は限られ、作業も限定的となるのが現実でしょう。また、日本での連結決算業務の手続として現地法人の重要性に応じて、本社の内部監査部門による往査或いは書類確認が行われるはずべきものの、監事の行う業務との連携が明確ではなく、業務の重複による非効率が生じていることが多くあります。

理想的には監事が中国の会計制度及び内部統制システムに精通しており、本社の内部監査部門の内部監査項目及びスケジュールを共有し、お互い補完しながら業務を進めることが望ましいといえます。限られた往査の日程においても、棚卸の立会・現預金の実査、債権債務の実在性確認と簿外債務の検証などは会計監査業務に参加することで監事に主体的に関与して頂きたい業務です。

不正行為に対しては、現地財務担当者とテレビ会議などを用いて定期的にコミュニケーションを取るなどモニタリングを重視している姿勢を強調し、不正の予防と兆候の発見が重要です。現地の財務担当者からは「誰が監事か知らない」「監事はいるが形だけだ」という意見を耳にすることがあります。監事が軽視されることなく現場レベルが常にモニタリングを意識して業務を遂行している、或いは内部統制の制度的手続きを通じて特に意識しなくても不正の入り込む余地がない、という域にまで達するにはどうしたらよいのでしょうか。まずは現地担当者と一度も話したことがない(面識がない)という状況を改善しましょう。財務担当者との会議では、財務数値の報告のみならず、債権の回収状況、新規取引先、利益率の変動、従業員の離職状況など、“?”と思う点があれば躊躇することなく疑問に思ったその時に遠慮なく質問しましょう。誰に限らず触れてほしくない点を説明するときには早口になったり、語尾が曖昧になります。そういう姿勢の変化も見逃さないことで「あの監事は見ているな」との意識づけが生まれます。

監事としての監査業務の要点

監事としての監査を具体的に進めるにあたってのポイント,指針となるものはあるでしょうか。日本監査役協会の公表する「海外監査チェックリスト」[1]などが参考になります。これは本来、日本本社の監査役が業務の一環として海外子会社を監査する際の指針ですが、中国子会社の監事が行う業務の指針にもなります。監事は会計監査だけを行えばいいというものではなく、業務監査を含む法人全体の経営をチェックしなければいけない訳ですから、個々の問題点に固執しすぎることなく、俯瞰的な視点を保ちながら限られた時間の中で業務を遂行する必要があります。資産の十分な保全、不正、利益相反行為の防止、良好な労務管理、権限を超えた契約行為の有無、など多々あるポイントを、チェックリストを使いながら効率よく網羅的に実施していきましょう。

「海外監査チェックリスト」と共に公開されている海外監査のアンケート結果には往査での留意点として、「現地人幹部との対話」、「法令知識のアップデート」、「現地法人負担の軽減」が上げられており、「監査の成否の70%は事前監査で決まる」とのコメントがありました。

外国語の苦手な現地人幹部が得てして経営上の重要な情報を握っていたりもするので、当地の言語に堪能且つ中立の立場に立つ通訳がいれば意義のある監査となります。また、現場作業で確認すべき資料を具体的にリストアップし、事前に通知することで限られた時間を有効に使うこともできます。

法定の会計監査を実施している法人であれば、監査結果に依拠して、「資産の保全状況」、「不正(粉飾)決算の有無」、「簿外(偶発)債務の有無」をポイントに再確認することとなろう。棚卸資産、固定資産の現物確認(サンプリングチェック)、銀行残高帳の閲覧などとともに、監査人との面談も毎年行いたいところです。監査法人の力量・監査水準の程度を推し量り、監査対象会社からの独立性が確保されているかを判断します。監査費用の合理性にも注意が必要です。安ければいいというものではなく、監査の水準を確保するための最低限の報酬は必要でしょう。逆に合理性を欠く高額の監査報酬は会社利益に相反するともいえます。

税務に関しては、現地の会社がこれまで積上げてきた慣習と税務担当者個人の経験に基づき、個人所得税、企業所得税等いずれの税目とも自身で申告する会社も多くあります。税務申告に対して現地税理士事務所など外部専門家によるレビューを受ける会社は未だ少い状況です。税務リスクは顕在化すれば利益の数十%が社外流出となり、キャッシュフローに与えるインパクトが極めて大きい項目であすが、総経理など子会社事業の責任者の業績評価が営業利益ベースであれば税金支出が自身の評価に影響しないなどから、責任の所在が曖昧にあることがあります。

また、恒久的施設(PE)課税リスクでは、日本本社が危機感を持って対処している一方で現地の税務担当者がリスクと感じていないなど、リスクの認識ギャップが認められます。

監事として税務の重点項目を監査するにあたっては、必要資料のリストアップと事前通知,チェックリストに沿った質問,資料確認が業務実施の成否を分けます。監事の往査時における実施項目の多さを考えれば、税務リスクは外部専門家に任せ、自身は業務監査に集中するのも選択肢の一つになりえましょう。

監事の業務を実のあるものに変える一番の方法は何でしょうか。

董事だけでなく監事もまた、現地法人の監督責任を負います。監事役の人選と任命には十分な考慮が必要であるとともに、役職に就く側としても法的責任を負うわけですから安易に受諾すべきではありません。形式的な役割からの脱却として、無報酬の監事(及び董事)をやめてみるのも一案です。報酬に見合う役割を果たす義務感と緊張感が醸成されるのではないでしょうか。

[1] https://www.kansa.or.jp/support/library/post-355/ 参照のこと

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