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士業専門・中国税務会計コンサルティング

中国税務調査〜音声画像調書は今後の新潮流となるのか

2025.07.14

最近経験した税務局の調査案件である。

税務当局より、とある日系在中国現地法人に「市当局より当税務分局に、引火生液体を取扱う法人を数社ピックアップして現況調査を行うこと、と指示があった。貴社が該当商品を取り扱っているので協力するように」との連絡が入った。

確認事項としては、

  1. 当該商品の販売に関する「許可証」を保持しているか
  2. 当該商品の保管場所は安全か。保管能力はあるか

であり、実施する事項として

  1. 実地検査を実施し音声映像記録を残す
  2. 会社を訪問し四員(法定代表者、財務責任者、納税担当者、増値税インボイス受取担当者)、と面談し現況につきインタビューする

とあり、注意事項として

  1. 法定調書には、四員の情報(氏名、身分証番号)、会社経営の状況、実地検査の状況が記載されていること
  2. 法定調書の様式を充足しており、署名、捺印が漏れなくされていること

と、手取り足取りの指示だが、これは税務局が担当すべき事項なのか?とも思える内容が含まれている。

当局にとっても新奇の調査方式のようで、議事録の様式は検査に先立ち会社に送付されてきたので、どんな内容をどの程度聞いてくるのか、検査はどのように進められるのか、がある程度推測できた。身分証或いはパスポートを持参するように、法定代表者が日本なら委任状をもって現地総経理が代行してもよい、インタビューは中国語で行われるので必要なら通訳を用意するように、とのことである。

総経理、私(財務責任者代行)、経理部長、弊社スタッフの4名で準備を進め検査に臨んだ。

当日10時半に税務局員2名来場。まずは会社の用意した議事録を確認する。

インタビューは法定代表者と財務責任者別々に行いたいとのことで、内容の同じ議事録を別々に用意する。日本人氏名はパスポートに合わせローマ字表記、年齢、パスポート番号を記載する。

会社住所、経営範囲、設立年月日、資本金、出資者名の記載が正しいことを確認し、代表的な販売先、調達元をそれぞれ一社挙げ、最近の取引について、商品名、金額、発票番号、を記載し、内容を裏付ける資料を確認。

自社倉庫はなく、直送なのでその旨を説明。議事録の修正で小一時間を費やした。

さて本番。スマホ大の小型録音録画機を取り出す(自分のスマホではなかった)。当局の録音録画調査専用機器のようだ。

「では最初から」

当局入場の場面から録画を開始する。入場、総経理のお迎え、社内撮影から会議室へ入室、着席、で一旦停止。

議事録をテーブルに整え、カメラを全員がフレーム内に収まる位置に設置。各自身分証、パスポートを手元に用意してインタビュー開始。

当局「本日私たちxx税務局の調査担当員何某、記録員何某は税収徴収管理法五十四条

に基づきxx有限公司を訪問しインタビューを実施する(身分証をかざす)。」

当局「現状をありのままに説明するように。事実と異なる虚偽の説明、資料の提出に対しては税収徴収管理法七十条の規定により処罰されることを了解頂きたい」

総経理「明白」

当局「あなたは法定代表者か」

総経理「いえ、私は当社総経理で法定代表者から授権を受けています(授権書を担当者に提示し担当者うなずく)。」

当局「会社の基本情報を説明頂きたい」

総経理「当社はxx有限公司、設立はx年x月x日。法定代表者は何某、登記住所はxx、資本金はxx元です」

当局「会社の経営内容を説明頂きたい

総経理「取扱商品は・・・・・、経営範囲は・・・・・・、直近の取引としては仕入先xx有限公司からxxをxxKG仕入れ、相手先xx有限公司に直送販売した取引があります。これがその発票などの証拠資料です、ご確認ください」

当局「(資料をみて)了解した。では貴社の四員について説明されたい。」

総経理「法定代表者何某、財務責任者何某、納税担当者何某、増値税インボイス受取担当者何某です(それぞれパスポート、身分証をかざしながら顔見せ)。」

当局「投資者の状況につき説明頂きたい」

総経理「xx株式会社がx%、株式会社xxがx%です。」

当局「了解した。以上でインタビューは終了するが事実の通りに陳述しており、事実と異なる陳述は法で罰せられることは了解されているか」

総経理「明白」

第一部の録画終了。同じ内容で財務責任者へのインタビューが行われ、昼前に全工程が無事終了した。

今回は当局にとっても実験的な事案であったようで、事前の資料確認が念入りに行われた。もとより当局から、税務調査ではない、との事前説明は受けており、インタビューも筋書き通りに進められた訳で、会社側としても突発的な質問への瞬時の回答など高難易度の対応が求められるものではなかった。

されど税収徴収管理法第五十八条に、当局が税務調査時において録音、録画、撮影方式で記録することができる、旨があり、実際に記録媒体を有していることを確認するに及び、今後この種の調査の記録方式がより普通に実施されるようになるのでは、とも予感される経験であった。

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