中国不正事例10選
これまで筆者が経験してきた不正事例の一部を、対策も併せて紹介する。
1.小金庫問題
現金(裏金)を会社としてリザーブすることまたは当該現金を「小金庫」と称する。簿外の現金であるが、会社の経営目的で使うためのリザーブであることから、会社資産の着服とは意味合いが異なっている。中国では、政府当局(税関、税務局、衛生部門、社会保険部門など)への少額の心づけを手渡すことで業務を円滑に進めてきた過去の経験から、今でも少なからぬ会社で小金庫を保有している現状がある。裏金の作り方としては、架空の社員の給与名目による現金支給、私用の旅費、飲食代などの発票による現金引出し、などがある。
会社の利益のために使われる資金の捻出及び支出という点からみれば悪質性はないとも言えるが、政府関係者への贈賄にあたることから違法性はあり、発覚した場合には企業ぐるみで関与していたことが明らかであるため、処罰を免れない。
会社の金庫で現金を保管することから、総経理も公認であることが通常。会社の金庫には置かず、総経理自らの勘定で資金を保有する場合もある。また、その他未払金などの帳簿勘定残高で資金をリザーブしておくこともある。
発見の方法としては、会社金庫の実査のほか、小金庫管理帳の有無(経理部長レベルで保管していることが多い)、総経理へのインタビュー(悪意はないので意外と正直に話してくれる)がある。
現在の中国のビジネス慣習として現金の授受は受け取り側としてもリスクの高い行為であるため、行為が発見されたら早急に廃止すべきであろう。
2.電子マネーの私的利用
会社口座と直結する公司支付宝(会社アカウントでのアリペイによる決済)を使用している会社で注意すべき不正。決済を一人で完結できるのは少額決済の利便性を高める一方で、監視の目が行き届かない分、不正に手を染めやすく、また少額であることからハードルも低い。
支払明細があることから個人の購入に使うというよりは一時的に資金を流用し、月末(或いは四半期など会社ごとの残高確認期間内)までに資金を戻すという手口が一般的である。
銀行勘定からアリペイ口座に資金を振り替えるため、その他未収入金勘定で管理することが多い。債権勘定なので管理が緩くなりがちである。アリペイ口座への入金も可能であり、顧客からの受け取り資金が未記帳のまま流用されることもある。残高のみでなく、明細の入出金項目もこまめに確認すること。
3.銀行預金の横領
銀行決済担当者が、普段あまり使われなくなった口座や定期預金口座の残高を横領し、過去の残高明細を添付したり、日付を書き換えたりしてコピーを確認のために責任者に回覧していることがある。残高に動きがないために確認が緩くなりがち。
このほか、動きのある口座から月初に引き出して利息を稼ぎ月末に戻すという手口もあり。残高のみでなく、明細の入出金項目もこまめに確認すること。
- 会社印の無断使用
印鑑管理者(総経理など)の不在時に無断使用するケースがほとんどであり、業務を滞らせないために顧客・ベンダーとの契約、不動産契約、資産購入・リース契約、備品購入契約などへの押印を無許可(或いは事後申請)で進めるなどの状況は比較的多い。悪意はないかもしれないが、管理の甘さが借用書や保証書などへの勝手な押印に繋がる可能性も否定できない。社印だけでなく総経理印も経理部員や秘書に預けている場合もあり要注意。
5.備品・消耗品の横流し、不正発注
支払即費用化処理とし、在庫管理をしていない備品・消耗品のうち、現金化しやすい文房具、包装、PC及び電子機器などの抜き取りが常態化していないかに注意。管理者の目には届かない、耳には入らないが従業員内では周知の事実となっている(多数が少なからず関与している)ことがある。金額的インパクトは少ないが、モラルの低下を招くので改善は必須。大掛かりになると、二重発注を掛け、その半分を収賄するなどの事例がある。また業者側のノルマ達成の依頼を受け、無意味に前倒し発注をかけるなどもあり、会社資産の流出ではないものの、会社資金の非効率な利用であることには変わりない。
6.重要データのコピーや転送
設計図、顧客リストなどの重要データのコピーは過去はUSBを使ったものであったが、PCにUSB使用制限を掛けるなどの対策を経て、個人名義のクラウドサーバーなどへの転送へと手口が多様化している。契約書(PDF)や管理資料のエクセルフォーマットなどは、ウェブ上で売買される商品価値のあるデータであり、抜き取られる可能性がある。重いデータのコピーには時間がかかるため休日出勤や業務時間外での実行が通常。よって従業員の勤怠状況をみて不自然な出社がないかを調べることも有効。結局のところはサーバーのログ記録を取るなどの監視の徹底と従業員への周知、IT技術的な制約、雇用契約・職務規定など法律上の制約、による防止しかない。評価に不満を持つ従業員がこの種の不正に手を染めやすいことから、人事評価のタイミングでの不正行為の実行に注意する。一般に能力のあるものが行う不正である。
7.従業員の関係する仕入先からの高値購入及びキックバック
購買部門従業員の妻や父母などの親族が代表を務める会社経由の高値購買、サプライヤー担当者と結託しての高値購買からのキックバック、などの不正事例が多くある。
取引開始に先立つ信用調査が甘い(購買部門が自ら行なっている)、相見積もりを取っていない、という根本的な管理不在と、ジョブローテーションがなく特定の従業員が長期に亘り担当を続けているなどの温床が不正を増長させる。ローテーションが難しい場合、担当に二週間程度の長期休暇を強制的に取得させ、その間他の従業員に業務を担当させることもある。しかしながらこの場合でも休暇中に担当者がスマホやPCから指示をしているようでは無意味。一従業員に権力を集中させず、部門内の相互牽制が働く人事バランスが求められる。一方で社内対立を生むことのないようにも注意。
8.仕入代金の不正口座への送金
仕入代金の支払先口座として仕入先法人以外の名義口座が指定されることがある。仕入先がその口座名義の会社に借りがあり、仕入先に代わって当社から直接返済するなどの理由があるとしても、三角債は三方の合意が必要であり、仕入先が発票を発行したとしても、仕入先以外の名義口座への支払はすべきではない。
また、名義は仕入先であったとしても長期にわたり未使用の口座への送金が指示される場合は要注意。仕入先内部で管理不足を突いた従業員による着服に利用するのかもしれない。仕入先が複数の支払先口座を指示してくる場合には要注意。理由を問うべきである。
9.スクラップ在庫、償却済固定資産の無断売却
簿外となっているスクラップ、償却済(つまり簿外)の固定資産の管理不在を良いことに倉庫、工場管理担当者が長年にわたり会社に無断でスクラップを売却し小銭を稼いでいることがある。担当者の役得として代々引き継がれ、表沙汰になりにくい体質にあるかも。棚卸実施時には、リストから在庫現物を確認する方向のみならず、現場にある物品からリストを確認する方向でのチェックも怠りなきように。
10.不正な経費精算
私用の発票を経費精算に回す典型的なものから、ニセ発票の使用、コピーと原紙を使った二重精算(別の社員に依頼しての精算とする場合も)などがある。小遣い稼ぎ程度の悪意のない程度のものかもしれないが、多くの社員がこれを良しとする気分の蔓延は防止したい。以前は税金のかからない給与外手当を支給するため、会社が指示して発票を集めさせる会社も多かったが、最近は流行らない(元より脱税である)ので止めた方がよい。
脱税ではないが、経営とは無関係の経費精算も損金否認されるので要注意。例えば現地法人の利益に直結しない本社社員の出張経費など。